先日、林家正蔵さんの落語を聞きにいきました。
落語や漫談を聞いて大いに笑い、身体も心も元気になった気がします。
さて、落語では職人や商人、長屋の人たちが滑稽な振る舞いをしますが、お医者が登場して薬を処方する噺(はなし)もあります。
たとえば、ある噺では、なんにでも葛根湯を出すお医者が出てきます。
「なに、頭が痛い? 葛根湯をあげるから、飲むといいよ」
「腹が痛い? ほら、葛根湯を飲むといい」
「退屈だろう、葛根湯でも飲むかい」
ばかばかしいのが、落語のおもしろさ。しかしながら、実際のところ、1つの薬がどんな症状、病気にも効くわけはなく、病気や体質にあっていないと薬がかえって毒にもなりかねません。
風邪や肩こりなど諸症状に広く用いられる葛根湯であっても、脱力感やむくみ、動悸などを起こす場合があります。
薬と毒は、表裏一体。
このことを端的に教えてくれる出来事の一つが、「イレッサ事件」です。
2002年、抗がん薬であるイレッサ(一般名:ゲフィチニブ)は、肺のがん細胞だけを標的とする、副作用の少ない「夢の新薬」として、異例の速さで承認されました。
しかし、期待と評判が先行し、種々のがんに効くとして爆発的に使用が拡がったものの、急性肺障害・間質性肺炎が続出。800名を超す死亡者が出たことを受け、現在では、効果が期待できるタイプの肺がんのみに用いること、全身状態が悪い場合は除くことなど、使用方法が厳格化されています。(添付文書の変化に注目!)
薬は正しく使ってこそ、薬。
近頃は、気分を昂揚させる目的で風邪薬などを過量服薬(オーバードーズ)し、健康を害する事例も拡がっているようですが、落語でも聞いてたくさん笑い、心や身体を健康にしたいものです。
(薬剤師:岡部 正史)