1 月も半ばを過ぎ、大変遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もはるか薬局をよろしくお願いいたします。
さて、我が国で新型コロナウイルス感染症が発症してから丸1年になるものの、収束の気配が見えるどころか、各地でさらに拡大する勢いであり、釧路も決して安心できない状況です。
私も、お正月は外出をするのもはばかられ、モヤモヤしながらステイホームしておりましたが、ゆっくり読書にあてる時間を持ててよかったかな、と思います。
読んだ中でも、特に印象に残った一作が、中島敦の自伝的小説、「かめれおん日記」。
中島敦と言えば、「李陵」「山月記」など中国の古典に材をとった作風で知られ、喘息発作のために33歳で夭逝した小説家です。本作は、鬱屈した主人公が人から預かったカメレオンと過ごす日常をどこかユーモラスに描いたものです。
作中では、喘息持ちの主人公の使う薬剤が出てくるため、薬学的にも非常に興味深いものとなっています。ちょっと専門的な話になりますが、以下に列挙し検討してみます。
①アドレナリン~気管支を拡張し、呼吸機能を改善
②エフェドリン~アドレナリンβ受容体を刺激し、気管支を拡張
③麻杏甘石湯~麻黄、杏仁、甘草、石膏など生薬を配合した漢方薬
④塩酸コカイン~ノルアドレナリンの再取り込みを阻害、β作用を増強
⑤ジウレチン~サリチル酸ナトリウム・テオブロミンの混合剤の商標名
気管支喘息の治療において、①~③はまず納得できるとして、④のコカインはいろいろとダメでしょ? と思いましたが、薬理的にみてもノルアドレナリンにはα作用とβ1作用しか期待できず、気管支を拡張する、β2作用はほぼないとされます。現在では麻薬として規制されているコカインですが、鎮痛作用や興奮作用がもたらされるからか、当時(昭和10年頃)は安易に使用されていたようです(というか、コカインの刺激は喘息発作を誘発するとされますが・・・)。
⑤は、抗炎症薬および利尿薬なのか? 成分の1つテオブロミンは、テオフィリンには劣るものの若干の気管支拡張作用も持っていますね。
当時はアドレナリンα、βなどの受容体や、β1、β2などそのサブタイプもまだ知られておらず、β1作動薬の濫用で心臓に負担をかけ、寿命を縮めてしまったのでしょうか? 吸入ステロイドがあればもう少し長生きできたろうに、などと考えてしまいます。
しかしある意味では、健康への不安、薬による高揚感が、彼に秀逸な作品を書かせる一助になったのかもしれませんね。
(薬剤師:岡部 正史)