先日、降圧薬が処方された患者さんと窓口でお話しした時のこと。
「血圧は上がっていませんか?」と私が訊くと、
「血圧、高いのよ。交通の便のいいところに引っ越したのはいいけど、家賃が高くて。去年の10月から医療費も2割負担になったし。ものの値段も全部上がってるしね」
血圧の上がる原因も、いろいろ。
塩分、寒さ、喫煙・・・そして情動やストレスなども関係します。
体内にはストレスを感知して血圧を上昇させる物質がいくつも存在しており、アドレナリンやノルアドレナリンなどが知られています。
セロトニン(正式には 5-hydroxytryptamine、5-HTと略されます)も、血圧を上げる物質の1つ。細胞の表面に突き出た「受容体」を介し、信号となって体のあちらこちらに伝わり、心血管系、精神状態、消化器症状や痛覚など、全身の働きに関与しています。
5-HT受容体の主要なもの(1~4)と、関連する薬についてまとめてみました。
5-HT1受容体 作動薬
5-HT1受容体はさらに、5-HT1A、5-HT1B、5-HT1D 等のサブタイプに分けられます。セディール(一般名 タンドスピロン)はシナプス後膜5-HT1A受容体に選択的に作用し、亢進しているセロトニン神経活動を抑制することにより抗不安作用を示します。
また、5-HT1B、5-HT1D 受容体はヒトの脳動脈に多く存在しており、血管収縮に関係しています。イミグラン(一般名スマトリプタン)は、片頭痛の発作時に拡がっている血管を収縮させ、痛みを改善します。
5-HT2受容体 遮断薬
アンプラーグ(一般名 サルポグレラート)は5-HT2受容体を遮断し、血小板凝集を抑えて、末梢血管の冷えや痛みを改善します。
また、リスパダール(一般名 リスペリドン)などの非定型抗精神病薬では、ドパミン受容体(D2受容体)を遮断して統合失調症の陽性症状を、5-HT2A受容体を遮断して陰性症状を、それぞれ改善させると考えられています。
5-HT3受容体 遮断薬
カイトリル(一般名 グラニセトロン)やナゼア(一般名 ラモセトロン)は、求心性の腹部迷走神経にある5-HT3 受容体を強力に遮断し、抗がん薬によって誘発される悪心・嘔吐を抑えます。なおラモセトロンは、イリボーという別の商品名で、過敏性腸症候群の下痢を抑える目的にも用いられます。
5-HT4受容体 作動薬
ガスモチン(一般名 モサプリド)は消化管神経叢に存在する5-HT4受容体を刺激し、アセチルコリンを遊離させて消化管運動を促進させ、胸やけ、悪心を改善すると考えられています。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬
中枢のセロトニン神経系に働く薬・パキシル(一般名 パロキセチン)などの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors、SSRIと略されます)は、シナプス間隙のセロトニン濃度を上昇させて神経系の活動を適正化し、うつ症状を改善させるとされます。
SSRIの副作用として、頭痛、眠気、吐気、下痢などがあります。前述した5-HT受容体群に薬効が影響した結果、好ましくない副反応が出たと考えるとわかりやすいですね。
俗に、「幸せホルモン」とも呼ばれることもあるセロトニン。ドパミンやノルアドレナリン、アセチルコリンなど他の神経伝達物質の働きをコントロールする重要な役割を担っています。
なにかとストレスの多い現代社会ですが、適度なストレスは人生のスパイス。困りごとを解決できた!とか課題を達成できた!といったようなことを積み重ねて、幸福感に変えていきたいものですね。
(薬剤師:岡部 正史)